比企丘陵農業遺産推進協議会
会長
(滑川町長)吉田 昇

 比企丘陵の北側には大きな河川がありません。そのようなこの地域においても先人たちは、米作りを行うべく努力を重ね、知恵を出してまいりました。中山間地域に位置づけられるこの地で作られたのが、山と山の間をせき止め、米作り用の水を確保する場所すなわち「谷津沼」と呼ばれている「ため池」です。協議会を構成する自治体の「ため池」の数を合わせれば、県内はもとより、日本でも有数のため池保有の地域となっております。特にわが「滑川町」では、大小のため池を合わせるとその数200箇所に上り、関東随一と言われております。

 近年では、里山と里山の間、いわゆる「谷津田」と呼ばれている田んぼで営まれる、ため池の水を使った米作りは、食味値も高く好評を得ているところであります。  米作りに当り、水は切っても切れない要素であり、そのため、水の管理は慣行水利権をもと に、耕作者による権利の行使がある反面、水利の維持補修といった義務を負ってまいりました。

【谷津沼農業における耕作者の権利と義務】

権 利 ●沼堤(ぬまづつみ)の草を刈る権利、沼水の利用について意見を言う権利
●沼の水が少なくなった時、優先的に魚を捕る権利
義 務 ●沼普請のときの費用や役務を負担する義務
●用水路の修理・保全の義務
●沼及び沼水に関して、入用な費用や役務を拠出する義務

 ため池は、このような権利と義務を行った中で、地域の宝として大切に維持管理され、現在に至っております。また、これらの権利と義務により、豊な自然環境を保持するととともに、農村での地域コミュニティーが育まれてまいりました。
 しかし、近年、農業者の高齢化や後継者不足により、谷津田での稲作農業が衰退し始めるとともに、谷津沼を中心とした生態系の保持や文化の継承が危ぶまれています。

 私は、滑川町で農家の子として生まれ、「ため池」のある風景の中で育ってまいりました。そして、現在滑川町の町政運営を任せられております。行政を預かるものとして、いにしえ人達が築き上げてきた悠久の谷津沼と共に歩む里山農法を継承し、次の世代にタスキを繋げていくことが使命と考えております。

 この度、「日本農業遺産」さらには「世界農業遺産」に、この「悠久の谷津沼と共に歩む里山農法」が認定される事を目指し、比企丘陵農業遺産推進協議会が設立されました。本協議会の設立は、必ずや関連する市町の地域おこしの起爆剤となり、農業面のみならず観光面、さらには学術面においても、大いなる光をこの地域が浴びることと思っております。
 今後は、私も先頭に立ち、「日本農業遺産」さらには「世界農業遺産」認定に向け、まい進し たいと強い決意をしております。

 近年、農業者の高齢化や後継者不足により、「ため池(谷津沼)」の管理が行き届かなくなるな ど、“谷津沼農業”の継承が危ぶまれています。
 このような状況を受け、比企丘陵地域にある 2 市 5 町及び JA によって、平成29年7月に、『比企丘陵農業遺産推進協議会』は設立されました。
 協議会では、地域の資産である農業環境の維持・継承を目的として、「日本農業遺産」および「世界農業遺産」の認定を目指し、活動を開始しています。

【協議会設置趣旨】 国際連合食糧農業機関(FAO)の定める世界的に重要な農業遺産システムを認定する世界農業遺産及び農林水産省で定める将来に受け継がれるべき伝統的な農業システムを広く発信する日本農業遺産(以下「農業遺産」という。)への登録を通じ、里山の保全、谷津沼(ため池)の管理・ 保全、谷津沼下に広がる谷津田を利用した伝統的農法の継続を推進し、国の天然記念物の「ミヤコタナゴ」、国蝶の「オオムラサキ」等の生態系の維持及び地域産業や観光等の振興を図るため、比企丘陵農業遺産推進協議会を設置する。